初めて読んだ藤沢周平の作品。
なんとも切ない。
舞台は海坂藩という架空の藩で、作者の出身地の山形が基になっている。
主人公は牧家の養子の文四郎15才。
友達と共に剣道場や学問塾で学び、毎日を真面目に過ごしている。
隣の家のふくのことがなんとなく気になっている様子。
風景の描写が細かく、森や小川や田園風景、神社の夏祭りが目に浮かんでくる。
夏の暑い日に母上が夕ご飯の支度をしている様子を現代のような便利な調理器具もない、音楽を聴きながら料理ではなく、質素な道具で蝉の声を聴きながら作っていたのかな、、、と想像した。
真面目に生活していた主人公なのに、藩の抗争の犠牲になって父が突然切腹をさせられるという苦難に見舞われる。
その頃、幼馴染のふくは大奥の勤めで江戸に行ってしまう。
江戸に行く前日に、ふくが文四郎を訪ね家に行くがすれ違い出会えないまま。
ふくはその後、藩主の寵愛を受け「お福」になって出産する。
隣の幼馴染が側室となり、その親の身分も高くなり
こういう事が本当にあったのか、、、
江戸時代の生活や価値観の違いに「こういう時代があったんだ」と改めて驚く。
養子縁組が多く、職業の自由も選択もなく、藩から与えられた仕事、住まい、ナニカあれば切腹、禄高を減らされ、強制転居のひどい仕打ちを受ける。
それでも剣道の腕を上げ、秘剣「村雨」を伝授されるほどに上達した文四郎。
剣道の事はわからないのでやっていた人なら、細かい技や間合いを楽しめると思う。
その後、禄や住まいを戻され、文四郎は田畑や河川の調査に歩き回る村回りの仕事を与えられる。
田んぼをまわる中で文四郎が言う「農事はやり直しのきかない真剣勝負 1年に1度の真剣勝負」が心に残った。
耕し、田植え、その後の手入れ、炎天下の中で這いまわっての草取り、長梅雨や強風、冷害、稲の病気、暑さの心配をし、その中で実っていく稲穂の美しさ、美味しい素晴らしい日本のお米に農業は尊いと思った。
後半、藩の世継問題の絡む政争に巻き込まれ抹殺を謀られるお福とお子を助け出し、その途中で罠に嵌り、陰謀だと気づき文四郎まで一緒にやられてしまいそうになるんじゃないかとお屋敷に届けるまでの場面は緊張でハラハラした。
一気に読みすすめられた。
それから約20年後に群奉行になった牧助左衛門(文四郎)と尼になろうとしているお福と湯宿で会い、蝉が鳴いている中、昔の若かった頃の話をしている。
切ない、、、
最後の最後、お互いの言葉だけで終わった方がもっと切ない感じがするのに、、、となんて事を思った。
映画やドラマにもなっているので、一度観てみたい。